Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第25巻 「人材城」 人材城

小説「新・人間革命」

前後
1  人材城(1)
 ″人材を見つけよう! 人材を育てよう! 人材の創価城を築こう!″
 山本伸一は、そう深く決意しながら、対話と励ましの指導旅を続けた。
 中国・蜀漢の名宰相・諸葛孔明は、「国を治める道は、力を尽くし、優秀な人材を見出し、登用することにある」との言葉を残している。創価学会の未来もまた、一に、どれだけ多彩な、たくさんの人材が育成できるかにかかっている。
 一九七七年(昭和五十二年)五月二十七日、午後一時半近くに佐賀文化会館を車で出発した山本伸一は、午後四時前、熊本文化会館に到着した。伸一の熊本県訪問は、八年ぶり八度目である。
 熊本文化会館は、四月三十日にオープンしたばかりで、外壁に茶色のタイルを施した三階建て部分と、大広間のある白い二階建て部分からなる美しい会館であった。周囲には、穂をつけた黄金色の麦畑が広がっていた。
 車を降りた伸一は、出迎えてくれたメンバーに、笑顔で言った。
 「来ましたよ! 皆さんにお会いしにまいりました!」
 庭に設置された石碑に、白布が掛けられているのを見た彼は、「では、すぐに除幕式を行いましょう」と、熊本県長の柳節夫に語りかけた。
 初代会長・牧口常三郎の「一人立つ精神」をはじめ、歴代会長の文字を刻んだ石碑、熊本文化会館の由来の碑が次々と除幕された。
 「じゃあ、県の青年部長! この碑文を皆さんに読んで差し上げて!」
 突然の指名であった。県青年部長の勝山平八郎は、驚き慌てた。しかし、「はい!」と言って、碑の前に進み出た。既に、この時から、伸一の、青年への育成が始まっていたのだ。
 由来を読む勝山の、大きな声が響いた。
 「熊本文化会館 由来
 懐かしき雄大なる阿蘇の噴煙……」
2  人材城(2)
 熊本県青年部長の勝山平八郎は、山本伸一に指名され、会館の由来を三行ほど読んだ時、言葉がつかえた。
 「法旗翩翻と」の「翩翻」の読み方が、頭に浮かんで来ないのだ。思い出すまでに、二、三秒かかった。さらに、その数行あとの「聳ゆ」でつまずき、最後の段落の「冀くは」で、また、口ごもってしまったのである。
 読み終わった勝山の額には、汗が噴き出ていた。
 伸一は、勝山に言った。
 「県青年部長が、会館の由来も、朗々と読めないのでは、みっともないよ。県の中心会館となるのが熊本文化会館なんだから、碑文は事前によく読んで、しっかり、頭のなかに刻みつけておくんです。急に言われて、上がってしまったのかもしれないが、そういう努力、勉強が大事なんです。
 戸田先生の、青年に対する訓練は、本当に厳しかった。『勉強しない者は、私の弟子ではない。私と話す資格もない』とさえ言われていた。
 お会いした時には、必ず、『今、なんの本を読んでいるんだ』とお聞きになる。いい加減に、本の名前をあげると、『では、その作品は、どんな内容なんだ。内容を要約して言いなさい』と言われてしまう。ごまかしなんか、一切、通用しませんでした。
 戸田先生が厳愛をもって育んでくださったおかげで、今日の私があるんです。
 青年は、未来のために、どんなに忙しくても、日々、猛勉強するんだよ」
 青年部のメンバーは、全員が創価学会の後継者であり、次代の社会を担うリーダーたちである。ましてや、県青年部長といえば、各県の青年の要である。県の各界の要人と会い、対話する機会も少なくない。
 それだけに伸一は、教養を深く身につけ、一流の人材に育ってほしかった。だから、あえて、厳しく指導したのだ。彼が、熊本に足を延ばした最大の目的も、青年と会い、青年を指導、激励することにあったのである。
3  人材城(3)
 山本伸一は、熊本文化会館で由来の碑の除幕を終え、部屋に入ると、次々に句を詠み、色紙に認めていった。
 そして、ほどなく、県長ら十人ほどのメンバーと懇談会をもった。
 「皆さんに贈るために、句を詠みました。
 『勝城山 広布の万年 築きたり』
 これは、県長の柳節夫さんに贈ります。
 『勝城山』は、熊本文化会館の別名です。勝利、勝利の熊本県にしていってください。
 『妙の華 勝城山に 薫りけり』
 この句は、県婦人部長の福知山昌江さんに贈ります」
 伸一は、さらに、幾つかの句を詠み上げ、色紙を手渡していった。
 「君よ立て 熊本広布に 馬上舞」
 「懐しき わが友光りぬ 勝城山」
 それから、彼は、皆に語った。
 「立派な文化会館が完成しました。いよいよ立派な人材が育っていかねばならない。
 では、学会の人材の要件とは何か――。
 根本的には、生涯、広宣流布のために生き抜く人です。学会と共に、師弟不二の大道を歩み続けていこうと決意し、それを実践している人です。
 しかし、人間の心のなかを見ることはできない。一生懸命に頑張っていたとしても、奥底の一念は、自分が偉くなって権勢を得ようという、野心である場合もあります。
 最悪なケースは、中心幹部が、それを見抜けずに、そういう人たちにおだてられ、乗せられてしまうことです。
 もしも、名聞名利の人や、自分のために組織を利用しようという人物に、学会が牛耳られてしまったら、仏法も、学会の精神も踏みにじられてしまう。これほど、恐ろしいことはありません。
 ゆえに、リーダーは、一人ひとりの奥底の一念を見極めていく眼をもつことです。そして、後輩の根本的な一念が濁ったり、曲がったりしないように、的確に指導し、広宣流布に生き抜く本物の闘士に育てていくんです」

1
1