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日蓮大聖人・池田大作

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第23巻 「勇気」 勇気

小説「新・人間革命」

前後
1  勇気(1)
 勝利者とは、自分に挑み、打ち勝つ「勇気」をもった人である。自身の弱さや臆病、怠惰、逃避、あきらめの心――それらを制してこそ、あらゆる勝利の扉が開かれるからだ。
 青年時代に、勇気をもって自らを鍛え、精進を重ねてきた人は、人生を勝利する確固不動の基盤をつくることができる。そして、そこに人間革命の大城が築かれるのだ。
 創価大学の通信教育部の開学式が行われた一九七六年(昭和五十一年)五月十六日の夜、東京・江東公会堂では、創価学会学生部の二部(夜間部)に学ぶ男子学生による、「勤労学生主張大会」が盛大に開催された。
 山本伸一のもとには、一カ月ほど前に、この主張大会の開催報告と案内状が届いていた。そこには、こう記されていた。
 「二部学生は、昨年八月、山本先生に『飛翔会』を結成していただきました。その大歓喜のなか、働き学ぶ者の立場から、創価の仏法哲理と山本先生の思想を社会に発信していくために、勤労学生主張大会を開催する運びとなりました」
 伸一は、出席したかったが、既に日程は詰まっていた。そこで、やむなく、この主張大会を担当する青年部の幹部に伝言を託した。
 「主張大会には、どうしても出席することができませんが、見守っています。青年の叫びは時代を動かす力です。健闘を祈ります」
 それから伸一は、妻の峯子に語った。
 「嬉しいね。二部学生が立ち上がったね。『飛翔会』を結成してよかった。若鷲たちが使命の大空に飛翔したんだ。
 私は、彼らが、これからどんな人生を生きていくのか、じっと見守っていくつもりだ。
 しかし、決して、彼らを甘やかしたくはない。本当の師子ならば、どんな逆境も必ず乗り越えて、広宣流布の大リーダーに、民衆の王者に育っていくからだ。私と同じ道を歩もうと心を定めた彼らが、軟弱であるわけがない。本当に期待できるのは『飛翔会』だというのが、私の確信なんだ」
2  勇気(2)
 学生部に「飛翔会」が結成されたのは、前年の一九七五年(昭和五十年)の八月二十六日、東京・江戸川区公会堂で行われた、第一回「二部学生大会」の席上であった。
 二部学生の学内活動は、その八年ほど前から活発化していた。そして、大学ごとに責任者を設け、指導会や大学別講義なども開催してきた。
 この七〇年代半ば、キャンパスでは、先鋭化していった一部のセクトが、内ゲバを繰り返していたものの、既に大学紛争は沈静化していた。学生たちの多くは、自分を賭けて悔いない理想も、運動も、また、連帯も見いだすことができず、しらけと孤立化が進んでいた時代であった。
 そして、社会とのかかわりを避け、就職もできる限り先延ばししようとする、いわゆる「モラトリアム化」が青年層に広がっていた。若者たちを、「無気力」「無関心」「無責任」と評する意見もあった。
 「新しき世紀を創るものは、青年の熱と力である」とは、戸田城聖の魂の叫びである。
 青年が建設への情熱を失った社会の未来は、暗黒である。山本伸一は、そうした若者の風潮を最も憂えていた。その伸一と共に、人間革命の哲学を掲げ、新しき時代建設の思想潮流を創ろうとしていたのが、学生部員たちであった。彼らは、熱く語り合った。
 「学生運動の波が全国に広がりながら、結局、破綻していったのは、根本的には、変革の主体である人間自身の変革が欠落していたからだ。だから、暴力という迷路に陥り、民衆から遊離してしまったのだ」
 「そうだ。今こそ、民衆一人ひとりの人間革命を機軸にした、新しい変革の波を起こさなければならない。生活に深く根差しつつ、目覚めた民衆が互いに触発し合い、信頼と共感の輪を広げ、平和的に漸進的に幸福社会を実現するんだ。これが広宣流布の大運動だ」
 新しき民衆運動の先駆けたらんとする、その学生部のなかで、大きな力を発揮していたのが二部学生であったのである。
3  勇気(3)
 二部学生は、昼間部の学生より、社会経験も豊かであるだけに、折伏・弘教に臨んでも説得力があった。また、実社会で鍛えられている彼らは、行動力にも富んでいた。
 折しも学生部では、次代のリーダーたる一騎当千の人材育成に力が注がれ、「精鋭五万」の結集が目標として掲げられた。
 二部学生は、この活動も自分たちが推進力になろうと話し合い、その決起の集いとして、一九七五年(昭和五十年)八月に、「二部学生大会」を行うことにしたのである。
 山本伸一は、学生部長の田原薫から、大会開催の報告を聞くと、即座に言った。
 「私も夜学に学んだ。二部学生は、皆、私の大切な後輩たちだ。
 二部学生は大事だよ。貴重な青春時代に、働きながら学ぶという逆境に身を置いて、自らを鍛え抜いている。そうした青年が、大人材に育たぬわけがない。学会の宝だよ。
 私は、この日は、神奈川にいるので出席できないが、みんなの重要な飛躍台になるように全力で応援するよ。
 はつらつとした二部学生の出発の会合にしよう。愛唱歌を作って、その日に発表してもいいんじゃないか。
 私もメッセージを書きます。また、人材育成グループを結成してはどうかね」
 田原の顔が、ほころんだ。
 「はい。みんな大喜びすると思います」
 伸一は、静かに頷きながら言葉をついだ。
 「そのグループについては、当日の全参加者、そして、全二部学生がメンバーだ。
 グループとして特別に講義をしたり、研修会をもったりする必要はない。学内や地域での日々の活動、また、仕事や勉強それ自体が訓練であり、修行なんだから。
 私と同じ青春の道を、真の師弟の道を歩む内証の誇りをもって、うんと苦労し、自らが自らを磨いていくんだ。それが、本当の師子の集いだ。自立の信仰者だ。
 グループの名称などの案を考えたら、必ず私のところに持っていらっしゃい」

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