Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第18巻 「飛躍」 飛躍

小説「新・人間革命」

前後
1  飛躍(1)
 「何より貴重な財産は、どんな純度の高いダイヤモンドにも増して誠実で強靭な民衆なのだ」
 これは、南アフリカの人権の闘士マンデラの、信念の言葉である。
 学会が「社会の年」と定めた一九七四年(昭和四十九年)は、第四次中東戦争、石油危機に始まった世界経済の激動のなかで幕を開けた。
 元日の午前十時、全国各地の会館などで、新春恒例の新年勤行会が、一斉に開催された。
 この年の勤行会は「世界平和祈願広布勤行会」を兼ねて行われ、「仏法即社会」の原理のうえから、社会で勝利の実証を打ち立て、貢献していくことを誓うとともに、世界平和への深い祈りを捧げる集いとなった。
 どの会場でも、参加者の顔は、決意に燃え輝いていた。
 ″今こそ、私たちが立ち上がるのだ。試練の時代だからこそ、仏法を持った私たちが、希望を、勇気を、活力を、社会に発信していくのだ!″
 多くの同志は、そう誓って、喜々として勤行会に集って来たのである。
 学会本部での勤行会に出席した山本伸一は、マイクに向かうと、「減劫御書」の一節を拝した。
 「大悪は大善の来るべき瑞相なり、一閻浮提うちみだすならば閻浮提内広令流布はよも疑い候はじ
 そして、確信のこもった声で語っていった。
 「大聖人御在世当時、社会は、大地震や同士打ち、また、蒙古襲来と、乱れに乱れ、激動しておりました。
 しかし、大聖人は『決して、悲観すべきではない。むしろ、こういう時代こそ、仏法の広宣流布という大善が到来するのである』と宣言されているのであります。
 私どもは今、戦後最大といわれる経済の激動のなかで、日夜、広宣流布に邁進しております。筆舌に尽くしがたい困難もあるでしょう。
 だが、どんな障害があろうが、『大悪は大善の来るべき瑞相』であると、強く、強く確信し、いよいよ意気盛んに大飛躍を遂げてまいろうではありませんか!」
 伸一の呼びかけに、「はい!」という明るい声がはね返った。
 すべての逆境を前進のバネへと転じていくのが、信心の一念なのだ。
2  飛躍(2)
 山本伸一は、激動する社会にあって、「大悪」を「大善」に転じ、広宣流布を実現していくには″如説修行″すなわち、仏の教え通りに修行し、信心に励むことの大切さを訴えねばならないと思った。
 「日蓮大聖人は、不惜身命の実践を訴えられた『如説修行抄』の末文に、わざわざ『 此の書御身を離さず常に御覧有る可く』と記されております。
 そして、この御文に対して日寛上人は、次のように言われている」
 伸一は、日寛上人の「如説修行抄筆記」を拝していった。
 「縦い常にこの書を頸にかけ、懐中したりとも、この書の意を忘れて折伏修行せざれば『離さず』に非ず云云。
 私に云く、常に心に折伏を忘れて四箇の名言を思わざれば、心が謗法に同ずるなり。口に折伏を言わざれば、口が謗法に同ずるなり。手に珠数を持ちて本尊に向わざれば、身が謗法に同ずるなり」
 ″如説修行″の信心を貫くということは、形式をまねればよいということではないし、観念でもない。破邪顕正を深く心に誓い、正義の叫びを放ち、祈ることである。つまり、身・口・意の三業をもって、実践してこそ″如説修行″といえるのである。
 また、深く心すべきは″如説修行″の信心に中途半端はないということである。
 心に折伏を忘れたならば、心が謗法に同じ、口に折伏を忘れたならば、口が謗法に同じ、勤行を怠れば、身が謗法に同ずるのだ。
 「よいことをしないのは悪いことをするのと、その結果において同じである」とは、牧口常三郎初代会長の箴言である。
 たとえ、信心強盛そうに見せかけても、身・口・意をもって、本気で信心を全うし抜かなければ、謗法と等しく、一生成仏はありえないのだ。
 だからこそ、山本伸一は、信心という面では、弟子たちに厳しく言い切っていかなければならないと思った。
 仏法の峻厳さがわからず、一生成仏への道を踏み外すことになれば、結果的に無慈悲になってしまうからだ。
 彼は大切な同志を、誰一人として、落としたくはなかったのである。
3  飛躍(3)
 山本伸一は訴えた。
 「この″如説修行″こそ、私どもが夢にも忘れてはならない、創価学会の根本精神なのであります。
 わが創価学会は、創立以来、日蓮大聖人の仰せのままに、勇猛果敢に、また、純粋に、戦い抜いてまいりました。
 まさしく″如説修行″を実行してきた唯一の団体が、私ども創価学会なのであります。
 そして、学会活動に日夜、挺身しておられる同志の皆様方こそ、まさに″如説修行″の姿そのものなのであります。
 ゆえに、私どもこそ、″正信の勇者″であり、人生、生活のあらゆる面で、諸天善神の加護があることは、間違いありません」
 大確信にあふれた言葉であった。
 世間には、厳しいインフレの北風が吹き荒れていた。しかし、集った同志たちの胸には、勇気と闘魂が赤々と燃え上がったのだ。
 伸一は、最後に、こう締めくくった。
 「本年『社会の年』は創価学会として、広く文化活動、社会活動を推進し、『世間法』との関わりを、深く、密にしていくことになります。
 しかし、ただ今、申し上げました、この″如説修行″こそが学会の根本精神であり、それは、いつ、いかなる時代になっても、絶対に変わることがあってはならない。
 むしろ、仏法を社会に開いていけばいくほど、その精神を深めていかなければならない。
 したがって、広宣流布の『本格派』たるべき皆様方ゆえに、本日は、あえて″如説修行″という一点を、強調しておく次第であります」
 皆の心は定まった。信心という原点を互いに確認し合い、新しき年の出発を飾ったのである。
 山本伸一は、この日、総本山に移動し、各部の部長会議で指導したのをはじめ、二日には新年の集いに、三日には新たに結成された東京未来会第四期・静岡未来会第一期の合同の集いなどに相次ぎ出席している。
 「先んずれば人を制す」と。伸一は元日からフル回転で活動を開始していったのである。
 彼が先手、先手と、手を打ち続け、活動を推進してきたところに、創価学会の大いなる飛躍の原動力があったのである。

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