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第4巻 「青葉」 青葉

小説「新・人間革命」

前後
1  青葉(1)
 青葉には、青年の輝きがある。
 晴れ渡る空の下、あふれる光を浴びて、彼らは希望の調べを自由に奏でる。
 瑞々しい葉脈には、若き生命の鼓動が脈打ち、明日に向かい、盛んに養分を吸い上げる。
 そして、風雨に耐えて、新緑から深緑へと、自らを深めてゆく。
 青葉茂る青年の森をつくる──そこに山本伸一の広宣流布の大構想があった。
 中国の『管子』にも「終身の計は人を樹うるに如くは莫し」とある。生涯の計画を立てるには、人材を育てよ、との意味だ。
 広宣流布の世界への本格的な展開の時代は、三十年後、四十年後になるに違いない。その時、社会の指導者となっていくのは、現在の青年たちを第一陣とする、若き世代である。
 したがって、今から、青年たちを育成しておかなければ、盤石な未来の建設はありえないことを、伸一は痛感していた。
 彼は、五月三日の本部総会が終了した後、青年部長の秋月英介をはじめ、運営にあたった男女青年部の幹部と懇談した。
 そこで、彼は提案した。
 「さあ、第二の幕が開いた。青年の大飛躍の節にするために、今日を出発点として、今年を『青年の年』としたいと思うが、そうしてよいだろうか」
 「はい! 結構です」
 男子部長の谷田昇一が、元気な声で答えた。
 「いかなる団体でも、青年に勢いがあり、青年がいかんなく力を発揮しているところは、永遠に行き詰まりがない。
 学会の未来を担い、広布の永遠の道を開いていくのは青年部です。だから私は、全青年を、これまでにも増して、本格的に育成したいと思う。
 青年部を中心に、新しい広宣流布の流れをつくることが、会長就任二年目の私のテーマです。
 そのために、各方面の男子部総会も、女子部の総会も、すべて出席するつもりでいます。真剣勝負で諸君を育てていこうと思っているのです」
 この一九六一年(昭和三十六年)の七月は、男女青年部の結成十周年にあたっており、五月から七月 上 旬にかけて、各方面ごとに、男女別に総会が予定されていた。それは、男子部にとっては、秋に行う精鋭十万の結集の事実上の開幕でもあった。
 というのは、既に男子部は部員二十五万人を擁しており、十万人の集いでは、代表の参加に終わってしまう。そこで、十万人の集いは、首都圏の男子部が中心となって行い、各方面での総会も、同じ意義を込めて開催することが決定していたのである。
2  青葉(2)
 山本伸一の言葉には、次第に力がこもっていった。
 「戸田先生の時代、青年部は学会の全責任を担い、常に学会の発展の原動力になっていた。
 戸田先生の言われた七十五万世帯は、誰がやらなくとも、青年部の手で成就しようという気概があった。
 そして、各支部や地区にあっても、青年が布教の先頭に立ってきた。また、何か問題が生じた時に、真っ先に飛んで行き、対処してきたのも青年部であった。すべてを青年部の手で担ってきました。
 だから、戸田先生も、『青年部は私の直系だ』と言われ、その成長に、最大の期待を寄せてくださっていたのです。
 しかし、学会が大きくなり、組織が整ってくるにつれて、青年が壮年や婦人の陰に隠れ、十分に力が発揮されなくなってきているように思えてならない。
 端的に言えば、自分たちだけで小さくまとまっていく傾向にあることが、私は心配なんです。
 青年部に、学会の全責任を担うという自覚がなければ、いつまでたっても、後継者として育つことなどできません。
 今、かつての青年部が学会の首脳となって、縦横無尽に力を発揮して戦っているが、皆、青年部の時代から、全学会の責任を持つ決意で、私とともに必死になって働いてきた。
 その自覚と行動があったからこそ、今、学会の首脳として、立派に指揮をとることができるのです」
 それは、伸一の実感であった。
 彼は、一部員であったころから、戸田の広宣流布の構想を実現するために、学会の全責任を持とうとしてきた。その自覚は班長の時代も、青年部の室長の時代も、常に変わらなかった。
 もちろん、立場、役職によって、責任の分野や役割は異なっていた。しかし、内面の自覚においては、戸田の弟子として、師の心をわが心とし、学会のいっさいを自己の責任として考えてきた。
 それゆえに、戸田の薫陶も生かされ、大いなる成長もあったのである。
 この見えざる無形の一念こそが、成長の種子といってよい。
 種子があれば、養分を与え、水をやり、光が注いでいけば、やがて芽を出し、大樹に育っていく。
 だが、種子がなければ、どんなに手をかけても、芽が出ることはない。
 伸一は、愛する青年たちの胸中に、全学会を担い立つ″使命の自覚″という、成長の種子を植えたかったのである。
3  青葉(3)
 全国に先駆け、青年部の方面総会の幕を開いたのは九州であった。
 五月七日、福岡スポーツセンターで、まず午前十時前から、一万一千人が参加し、女子部の九州総会が開催された。
 山本伸一は、若い女性たちのために、わかりやすい譬えを引いて、仏法とは何かを話していった。
 「たとえば、道路交通法という法律があります。これは、円滑に車が走り、また、人命を守るために、つくられたものです。
 そして、私たちは、たとえば、信号が赤になれば止まり、青になれば進むことができると教わり、それを守ることによって、安全に往来することができます。
 しかし、もし、それを知らずに、あるいは、せっかく教わっても、聞き入れようとせず、歩行者が赤信号を渡れば、どうなるか。いつかは、車に、はねられるなどの事故に遭うことになってしまいます。
 道路交通法以外にも、国で定めた法律は、たくさんあります。それを破って、窃盗や詐欺を働いたりすれば、裁きを受けなければならない。そうなれば、被害者だけでなく、自分も不幸になってしまう。
 また、人が定めた法律ではありませんが、自然界にも、自然界の法則があります。たとえば、日本の国に四季があるのも、その一つです。この法則を知り、活用して、米なども田植えの時期を決め、秋に収穫してきました。
 しかし、それを知らないで、秋に田植えをしても、収穫は望めません。
 同様に、大宇宙を貫く、生命の根本の法則というのがあります。それが仏法であり、その根源の力が南無妙法蓮華経なんです」
 参加者は瞳を輝かせ、山本会長の話を聞いていた。
 「人びとは、国法については知っている。また、自然界の法則も学び、そこから、科学の進歩も生まれてきました。
 しかし、人間が幸福になるための、大宇宙の根本法則、生命の因果の理法は知りません。真実の幸福を創造していくには、その根本の法則を知り、それに則して生きていくことです。
 その仏法を、人びとに教えていくのが、私たちの広宣流布です」
 笑顔で頷く参加者の姿が目立った。
 伸一は、最後に、信心によって、自己自身を人間革命し、幸福境涯を築くとともに、日本、世界の民衆を救いゆく日まで、前進の歩みを運んでいこうと訴え、話を結んだ。

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